2018/04/16

終わった恋の隠し場所 ~ストーカーから逃れるために~


頭のおかしい男・ショウがユリアに執着しているのなら、二人を引き離すことはムリなんじゃないかと思った。

別れ話はもう10回以上したそうだ。

というより、ほとんど毎日あいさつのように、「もう別れよう」的なことを彼女は言い続け、そういう態度を見せているらしい。

彼は毎回どんな反応を見せるのか?

急に優しくなったり、急にめそめそと泣き出したり、急にブチギレたり、その日によってちがうらしい。

訳が分からない。

というのも、彼がどんな反応を見せようと、彼女が荷物をまとめてとっとと彼の場所から出ていけばいい。

そして連絡を断てばいい。

でも彼女に言わせると、そう簡単にはいかないらしいのだ。

なぜ?

彼が実家に押しかけてくるから。

ストーカーか・・・、めんどうだな、と私は思った。

実家だと、家族まで怖がらせ、迷惑をかけてしまう(すでに数回やらかしたらしい)。

彼女が彼の家に留まれば、彼は追いかけてこない。

問題を大きくしたくないので、彼女は彼の嫌がることをわざとやって、彼から嫌われ、彼の家から追い出されるのを待っている。

彼のほうが彼女に対する執着をやめてくれたら、すべてはキレイに片付く。

「出て行け!」と一言言い放ってくれさえすれば、丸く収まる。

しかし彼はそうは叫ばない。

別れるほうに駒を一つも進めない。

心を動かさない。

彼女だけを見ている。




私はユリアを家に呼んで、かくまうこともできた。

それを真っ先に思いついた。

広い家ではないけど、私はほとんど一日中仕事で外に出ているので、寝るときだけ一緒になるくらいだ。

彼女が大丈夫なら、私はすぐにでも実行するつもりだった。

けれど彼女はそれでいいが、彼女の実家はどうなるだろう?

ショウがやってきて、彼女の居場所を聞くだろう。

教えてもらうまで、しつこく何度も押しかけるだろう。

そのうち「教えないならおまえを刺す」と彼女の母親か父親に迫るだろう。

テレビでたびたび報道させる事件の匂いがした。

その話を彼女にしたら、「彼ならやりかねない・・・」と言った。




じゃあどうすればいいのか?

なぜそれほどまでにユリアに執着するのか?その理由を彼女自身に考えさせた。

「世界で唯一私だけが味方だと思っているから」と彼女は答えた。

彼の歌をほめたり、彼の作曲した楽曲をほめたり、活動そのものを応援したり、そういうことをしていたのは彼女だけだったらしい。

周りからは無視されていた。

作曲の先生から才能がないとはっきり言われたこともあるらしい。

それでも彼は作曲しているときだけ、生きていて楽しいと感じるので続けている。

でも一人でやるのは嫌だ。

誰かにそばで見ていてもらいたい。

優しい誰か、自分を否定しない誰か、奴隷的な誰か、それがユリアだった。




私は考え方を少し変えた。ユリアの姿をくらますのではなく、彼女の代わりになる人を見つければいい、そんなふうに思った。

いや、彼女よりも純粋に彼をほめ、純粋に励まし、純粋に愛す誰かを見つける必要があった。

今の彼女より魅力的に見える誰か。

しかしそんな人間どこを探しても見つからなかっただろう。

見つけるのに時間をかけていたら、彼女がもっと消耗し、関係がもっと複雑化され、神経そのものが麻痺してしまう。

急がなければ・・・。

私は、それは面白そうだと思った。

やってみる価値はありそうだと思った。

私が彼女の身代わりになり、彼に近づく。

純粋に彼をほめるふりをし、純粋に彼を励ますふりをし、純粋に彼を愛すふりをする。

ありだと思った。

私ならきっとうまくやれるだろうという自信もあった。

私は学生時代うぬぼれていた自分を取り戻した気分だった。

「これが私。本当の私」と言わんばかりだった。

彼女からショウという男の話を聞けば聞くほど、自分が優勢だと思い込むことができた。

ああ、私はなんてめんどうなことに足を突っ込んでしまったんだろう?

いったいどれだけ人生に退屈していたんだろう?

嘆きながらも、私は徹底的にやるつもりだった。

作戦を練りに練って、彼から彼女を引き離すだけでなく、彼を地獄の底へ突き落とすくらいの覚悟でいた。