2018/04/24

終わった恋の隠し場所 ~昼の光の下で~




ショウから「会ってもらえますか?」とメールが来て、私は有頂天だった。

作戦はうまくいった。

「作曲の東城先生が気に入った」というのは余計なことだったけど、今後ショウの心に侵入するのに、好都合かもしれなかった。

さっそくショウと会う約束をした。

彼は「SNSで知り合った人間と、しかも男と会うのは、トモさんにとって不安でしょうから、銀座などの人気の多い場所で会うのはどうですか?」と聞いてきた。

バーカ、私はおまえが誰だか知ってる。場所なんかどこだっていい。川沿いでも、山の中でも、おまえは理由もなく初回で私を殺したりはしない。おまえは殺人鬼じゃない。ただのイカれた男だ。

そう思ったけど、「どこでもいい」なんて答えたら、ヘンな女だと思われる可能性があったので、大人しく銀座で会おうと思った。

でも私は銀座が好きじゃなかった。銀座じゃ落ち着かない。こっちのペースでやれない。

私は当時都内に住んでいたのだが、ショウが住んでいる横浜で会うほうが都合がよかった。横浜は私の出身地だ。街全体をよく知っている。

何回かメールのやりとりをして、結局桜木町で会うことになった。




約束の日、都内から桜木町に向かう電車の中で、ショウからメールが来た。

「トモさんは自転車に乗れますか?」

は?どういう意味の質問だろう?そんなバカげた質問されたことが今までなかったので、返信に困った。

乗れない人なんているんだろうか?(いるかもしれない)

それを知って彼はどうするんだろうか?

深く考えれば考えるほど、出口が見えなくなりそうだったので、あきらめて返信した。

「乗れますよ」

そのメールの一方通行な印象は、彼の性格そのものだろうと思われた。

桜木町駅の真ん前で、彼は自転車を構えて待っていた。2台。1台は自分が乗る用、もう1台は私用?

いったいどうやってここまで運んできたんだろう?

季節は夏。彼はすでに汗びっしょりになっている。

やだな、と思った。ユリアのためとはいえ、こんな男に近づくのやだな、と思った。

彼の自転車はシルバーで、私に貸してくれた自転車は赤だった。たぶん普段ユリアが使っているものなんだろう。

自転車のことまでは彼女から何も聞かされていなかった。彼が買ったものなのか、ユリアが買ったものなのか。

もし彼の所持品なら、ガードレールに突っ込んで、パンクさせたくなった。

動画で彼を見たときには、ミステリアスな印象がしたけど、昼の光の下では、いっさいの魅力を感じなかった。

すぐにその辺のカフェに入って涼みたかったのに、この男は私に自転車をこがせるつもり?

異常としか思えない。それとも中高生の青春的な映像を、彼は求めているのか?

色々思ったけど、私は彼が用意した自転車に大人しく乗った。




私は横浜出身ということをふせていた。ただ黙ってショウの背中を追って自転車をこいだ。

汽車道を過ぎ、赤レンガ倉庫が見えてきた。

景色が変わるたび、いちいち驚いたほうがよかっただろうか?

その必要はなかった。彼は私の反応などまるで気にしてなかった。

横浜を案内したいからわざわざ自転車を2台も用意したわけじゃなさそうだった。

彼が好きなスポットに私を連れて行くのに、歩くのがめんどうだから自転車を用意したみたいだった。

少なからず私にはそう感じられた。

彼はほとんど振り返らなかった。スピードもゆるめなかった。

なんて下手なエスコートなんだろう。

というより、こんなのエスコートになってない。

ユリアはいつも、この冷たさの中にいたんだな。

この冷たい背中に触れたり、逃げたり、振り回されたりしていたんだな。

真夏の横浜、熱いアスファルトの上で、彼の背中はその冷たさのせいで、もしくは愚かさのうちに、他のものをすべてはねのけて異様に輝いて見えた。





最初から読む:『終わった恋の隠し場所 ~恋愛ではない何か~』

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